スマホを伏せたのに、また手に取ってしまう。
通知は来ていない。
それでも、LINEを開く。
「忙しいんだろうな」と考えた数分後には、「何か嫌なことを言ったかな」と、最後のやり取りを読み返している。
気を紛らわせようと動画をつけても、内容が入ってこない。お風呂に入ろうと思っていたのに、もうこんな時間。
そんな自分に、またため息が出る。
「もっと自立しないと」
「一人の時間を楽しめるようにならないと」
分かってる。
分かってるけど、それができなくて困っている。
この苦しさを考えるとき、手がかりになるのが、精神分析家ウィニコットの「一人でいられる能力」という考え方です。
少し難しく聞こえるかもしれません。でも、返信を待つ夜のあなたにも、つながる話だと思います。
一人の時間に、何がいちばん怖くなる?
一人で仕事もできるし、買い物にも行ける。
一人でご飯を食べることだって、別に平気。
それなのに、好きな人から返信が来ないと、急に何も手につかなくなる。
ここには、「一人が苦手」という言葉だけでは言い切れないものがある気がします。
「寂しい。少し話したい」
「このまま連絡が来なくなったら、どうしよう」
「私だけが会いたいのかな」
「もう大事にされていないのかもしれない」
同じようにスマホを見つめていても、心の中で起きていることは少しずつ違います。
恋愛で見捨てられることへの不安が強くなりやすい傾向を、この記事では「不安型」と呼びます。診断名でも、その人のすべてを表す言葉でもありません。
もし、あなたの苦しさに近い言葉を選ぶなら、どれでしょうか。
「返信が欲しい」の奥で、何を確かめたくなっているのか。
そこを少し見てみると、自分への接し方も変わってきます。
ウィニコットが考えた「一人でいられる能力」
ウィニコットは1958年の論文で、一人でいられる能力の土台として、信頼できる養育者がそばにいる中で、一人で過ごす経験を重視しました。[1]
例えば、こんな場面を思い浮かべてください。
子どもが床で積み木を並べている。
少し離れたところには、安心できる大人がいる。
ずっと話しかけられているわけでも、遊び方を指示されているわけでもない。
でも、困ったら気づいてもらえる。
その気配に支えられて、子どもは自分の遊びに戻っていける。
誰かのそばで、自分の世界に浸っていられる。
ウィニコットの考えを、日常の場面に置き換えると、こうしたイメージです。
やがて、その支えが心の中に取り込まれていく。相手がいつも目の前にいなくても、一人で過ごせるようになる。彼は、そのように考えました。[1]
一人の時間を支えるものの中に、誰かと過ごした安心の経験がある。
ここが、この考え方の大切なところです。
会っていると安心できるのに、離れると不安になる
ここからは、ウィニコットの考えを手がかりに、恋愛の場面を考えてみます。彼自身が、不安型の恋愛について直接述べた説明ではありません。
会っているときは、ちゃんと好きだと感じられた。
帰り際にも、優しくしてくれた。
そのときの安心は、確かにあったはず。
でも、翌日になって返信がないと、昨日の優しさまで信じられなくなる。
「本当は無理して会ってくれたのかな」
「あれは、その場だけだったのかな」
もし、こんなふうに揺れることがあるなら、あなたは相手が離れている間、つながりの感覚を保つのに、とても力を使っているのかもしれません。
返信が来た瞬間、ふっと息ができる。
止まっていた家事が進む。ようやく食べる気になる。
それくらい相手の反応に安心が左右されていると、待つ時間はしんどいですよね。
そこで「趣味に集中しよう」と言われても、うまくできない日があります。趣味を楽しむための気持ちの余裕が、今は持てないのだから。
もちろん、この揺れ方だけで、生い立ちや原因が分かるわけではありません。過去の別れの経験も、今の相手の態度も、疲れや生活の余裕も、確かめる必要があります。
まずは、スマホを開く自分に気づいたとき、こんな言葉を置いてみてほしいです。
「今、つながりがなくなった気がして怖いんだな」
それで不安がすぐに消えなくても、自分の苦しさを少し正確に受け止められます。
「一人が平気そうな相手」と比べなくていい
相手は返信をしなくても、楽しそうに過ごしている。
自分ばかりが連絡を待っている。
それを見て、「あの人みたいになれたら」と思うこともあるかもしれません。
ただ、一人で過ごしている姿だけで、その人の心の中までは分かりません。
安心して自分の時間を楽しんでいることもあれば、人と近づくことに負担を感じ、距離を取っていることもあるでしょう。単に連絡の習慣が違うこともあります。
「回避型だから一人でいられる能力が高い」とも、「不安型だから低い」とも、簡単には決められません。
あなたが目指す姿は、あなたの暮らしの中で考えていいです。
会いたいときには、会いたいと伝えられる。
会えない日は、残念に思いながらも、温かいご飯を食べて眠れる。
どうしてもしんどい夜には、人を頼れる。
そんなふうに過ごせる時間を、少しずつ増やしていくことを考えてみませんか。
安心して一人で過ごすために、試せる3つのこと
ここからは、日常で試すための小さな提案です。ウィニコットが示した治療手順ではありません。今の自分に合いそうなものを、一つ選ぶくらいで読んでください。
1.「起きていること」と「浮かんだ意味」を書き分ける
メモに、短く書いてみます。
- 起きていること:昼に送ったLINEに、夜になっても返信がない。
- 浮かんだ意味:もう私に興味がないのかもしれない。
- 気持ち:怖い。寂しい。
- 今、必要なこと:気持ちを聞いてほしい。明日の予定も確認したい。
無理に「きっと愛されている」と考え直す必要はありません。
「返信がない」は分かる。
「興味がなくなった」は、今の情報ではまだ分からない。
その間に少し余白をつくります。
また、予定を確認したいなら、実際に調整が必要な話です。不安を落ち着かせることと、相手に必要な連絡をすることを、それぞれ考えられます。
2.気を張らずにいられる相手との時間を持つ
一緒にいても、ずっと話を盛り上げなくていい友人。
別々のことをしていても、居心地の悪くならない人。
そんな相手は、いるでしょうか。
例えば、同じ部屋でそれぞれ本を読む。近況を少し話して、一緒に散歩する。
「何かをして相手を喜ばせていなくても、ここにいていい」と感じられる時間に目を向けてみてください。
今すぐ思い浮かばなくても、自分を責めなくて大丈夫です。そうした関係をこれから探していくことも、相談の場で自分の感じ方を話してみることも、選択肢になります。
3.返信を待つ間に、自分のための行動を一つ選ぶ
長時間スマホを見ない目標を立てると、それ自体が苦しくなることもあります。
まずは、スマホを置いている短い間に、自分の状態を確かめてみる。
「お腹はすいている?」
「肩に力が入っていない?」
「本当は、もう眠い?」
それから、温かいものを飲む。お風呂に入る。食べ損ねていたご飯を食べる。
不安が残っていても、できそうなことを一つ。
途中でまたLINEを開いても、失敗と数えなくていいです。お茶を一口飲めたことも、自分を気にかけた一回に含めてください。
自分の不安と、相手の不誠実さを分けて考える
最後に、ここははっきり伝えておきたいです。
関係の苦しさを、全部「私が不安型だから」で引き受けないでください。
返信が少し遅れることと、約束を繰り返し破られること。
一人の時間を必要とすることと、こちらが困っているのを知りながら、話し合いを避け続けること。
それぞれ、起きていることを丁寧に見ていく必要があります。
恋人が自分を理解し、気持ちや必要に応じてくれると感じていることは、その関係での愛着不安の低さと関連するという研究もあります。[2]
安心には、二人の間で積み重ねるものもあるのです。
もし今、ブロックや長い音信不通の中にいるなら、日常的に返信を待つ場面とは分けて考えてください。関係そのものが見えなくなっているときの苦しさを、あなたの能力不足と結びつける必要はありません。
あなたには、安心できるやり取りを望む気持ちがあっていいです。
希望を伝えることも、相手が応じる意思を持っているかを見ることも、関係を続けるか考えることもできます。
一人で過ごす時間が少し楽になってきたとき、「私はこの関係で、どう扱われたいんだろう」と考える余裕も持てるかもしれません。
今夜、まだ返信が気になるとしても。
読みたかった本を一ページ開く。
冷めてしまったご飯を温める。
寂しければ、信頼できる人に少し話を聞いてもらう。
相手を待っている時間にも、あなた自身の暮らしは続いています。
返事を待っているあなたにも、ご飯を食べて、休んで、いたわられる時間があっていい。
まずは今夜、自分のために一つだけ。
参考文献
[1] Winnicott, D. W. (1958). The capacity to be alone. The International Journal of Psycho-Analysis, 39, 416–420.
[2] Rice, T. M., Kumashiro, M., & Arriaga, X. B. (2020). Mind the Gap: Perceived Partner Responsiveness as a Bridge between General and Partner-Specific Attachment Security. International Journal of Environmental Research and Public Health, 17(19), 7178.


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